被害妄想

20歳の底辺大学生が一生懸命生きているブログ

先生に嫌われていた女の子の話

昔話がしたい。

先生にとても嫌われていた9歳の女の子の話。楽しい話でもスッキリする話でもないが、誰かに聞いてもらった方が彼女も浮かばれるのではないかと思う。

彼女は普通の女の子、と自分では思っていたが少しだけ普通とは違っていた。4人家族のうち母親は自閉症である弟にかかりきり、父親は普段は温厚だが彼女や他の家族の意図しない所で突然怒り出し、怒鳴ったり物を投げたりして暴れた。まだ幼かった彼女はその場で硬直し、ただひたすら終わるのを待つことしか出来なかった。誰も父親が怒るタイミングや原因を理解できなかったのでいつ爆発するか分からない爆弾を前に彼女も他の家族もどうか今日は爆発しませんようにと祈るしかなかった。

そんな彼女の4年生の時の担任はベテランの厳しいことで有名だった中年男性だった。初めは先生と彼女の関係は普通の教師と生徒のそれだったが、ある時を境に先生は彼女に対してどんどん厳しく当たるようになる。

最初は分数の宿題だった。彼女は算数が苦手で分数と少数の理解がほとんど出来てなかった。その事を言い出せない彼女はクラスからどんどん置いていかれ、その内授業を理解する事をやめた。そうすると当然宿題が出来なくなった。宿題を出さない日が1日、2日と過ぎていき、彼女はとうとう先生のブラックリストに入れられた。先生は彼女を放課後に呼び出しキツく叱った。それは正しい行いで彼女は怒られるべきだった。しかし、彼女は年上の男性に怒鳴られるという事にどうしようもないくらいの恐怖を感じていた。頭は考える事を止め、手も足も表情ですら硬直し動かなくなった。心臓だけがバクバクと音を立てて鳴り、足元が崩れ奈落の底に落ちて行くような感覚を味わった。

次に彼女の頭が正常に働いた時、最初に見たのは怒りで顔を真っ赤にしている先生の顔だった。先生はどうやら彼女が反省の1つもしていない事に腹を立てているようだった。親にも連絡したからなと言われその日はそのまま家に帰らされた。家に帰ると母親が、今日から一緒に宿題をしようと言ってくれた。彼女は母親の手間を増やした事を申し訳なく思った。父親は怒らなかった。彼は彼女が何かしたり、誰かから何かされた時には怒らない。その日から彼女は頑張って宿題を少しずつ出すようになった。

しかし、彼女と先生の距離は縮まらなかった。ある日の昼休み、彼女は図工の宿題を先生と他の生徒が批評しているのを聞いてしまった。これは良い、これはもう少し、楽しそうに喋っていたが先生がある作品を手に取り「これはアカンわ」と言った。何故ダメなのか聞く生徒に、色がアカン、切り方が汚いと先生は理由をいくつか話してその作品を持ち上げた。それは彼女の作品だった。その後も何個か作品のダメな点を挙げた後で先生はその作品に名前が書かれていない事に気付いた。5時間目の図工で宿題の返却が行われた。全員の返却が終わった後に先生は例の作品を持ち上げ、名前は無いけど誰のだ?と聞いた。それを見た友達は彼女に「これアンタのちゃうん?」と大きな声で言った。彼女は首を横に振り、私のじゃないと返した。他の友達も彼女の物だ、出すのを見たと言っても彼女は首を横に振り、宿題をしてこなかったと言った。しかし、その宿題は全員が提出しており彼女の嘘はすぐにバレた。俯く彼女の机に作品を置きながら「いつかお前は友達無くすぞ」と先生は吐き捨てた。

別の日には、算数の授業で大分前に出した宿題の答え合せをする事があった。大分前の事なのでその宿題を持ってない生徒が沢山おり、先生が持ってない生徒のプリントを印刷する事になった。先生はプリントが必要な生徒に手を挙げさせた。もちろん彼女も手を挙げた。先生は数えた後職員室に向かいその枚数分のプリントを持って教室に返ってきた。そして1人ずつに配ったら何故か1枚足りないという事態になった。先生はもう一度生徒に手を挙げさせ、数を数え直した。すると、先程より1人多く手を挙げているようだった。先生にはすぐ犯人が分かった。「おい、お前さっき手挙げてたか?」彼女に聞くと彼女は曖昧に頷いた。「嘘を吐くな!」怒鳴られた彼女に例の発作がまた現れた。もう自分では動けなくなってしまったのだ。何も弁明をしない彼女を立たせ、何故嘘を吐くのか、もうお前の事を誰も信用できないとクラス全員の前で叱った後、先生は彼女に自分の分のプリントを印刷してくるように命じた。彼女は動かせない手足を無理やり引きずって、一体自分の何がいけなかったのかを職員室のコピー機の前で考えていた。

10月半ばくらいになると彼女はだんだんと体調を崩し始めた。朝4時に目が覚めそれからずっと謎の頭痛に悩まされた。朝ごはんを食べ玄関先に行くと今度は腹痛がした。休みの日は昼の12時を超えるとあと何時間で学校が始まるかということしか考えられるなくなった。そして朝になると腹痛。痛い、学校に行けないと言うと母親は心配そうな顔になり学校に休みの連絡を入れた。父親はまた休むのか、小学生は気楽でいいなと嫌味は言ったが、それ以上は何もしてこなかった。学校を休みがちになった彼女のもとに先生が面談に来た。何故学校に来れない?何か嫌なことがあるのか?と聞く先生に彼女は何も答えることが出来なかった。

誰にも何も言うことが出来ない彼女は、その内学校に行くしか選択肢が無くなってきた。不登校でいる勇気もなかったのだ。幸い、友達は優しい子ばかりだったので先生を怒らせないようにしていれば平和な日々を過ごせた。彼女は学校に戻ってきた。そしてこの後、大変な騒ぎを起こしてしまった。

彼女はある時、違うクラスの友達5人と遊んでいた。この友達の1人が、気の強いやんちゃな子で他の4人も彼女も怖くて逆らえなかった。そしてこの子の提案で彼女達はとてつもなく悪い事をしてしまった。一応彼女の名誉の為に書いておくが万引きや他の人に迷惑が掛かることではない。ただ凄く危ないことだ。もちろん小学校から何人も先生がすっ飛んできて彼女含めた6人はこっ酷く叱られた。暫く叱った後、十分反省していると思ったのか5人は家に帰らされた。だが何故か彼女だけはその後学校に連れていかれまた説教を受けた。何故私だけと流石に彼女も思ったが、自分が悪いという自覚があったのでずっと黙って聞いていた。先生は彼女が反省している様子を満足そうに見つめた後、もう帰っていいぞと彼女を家に帰らせた。他の5人が帰った2時間後のことである。

次の日、登校した彼女に待っていたのは裁判だった。弁護人がいない、検察と裁判長が同じ裁判だ。先生は彼女を黒板の前に立たせると、彼女が以下に悪い事をしたのか、これから反省すべきなのかを語った。何故か他の5人の名前は挙げられなかった。クラスの子は彼女を笑い、それから暫く彼女は罪人として扱われる事になった。後で聞いたところ他のクラスではそんな事は行われなかったという事だった。同じ罪を犯したのに、他の5人は匿名で守られ彼女1人だけが矢面に立たされ罪人と笑われた。先生はその様子を見て満足そうに笑っていた。

これでおしまい。ハッピーエンドじゃ無いどころか起承転結さえないつまらない話だったと思う。何故私が彼女の話をしたのかというと、成人という大きなイベントを迎えた夜に彼女が夢に現れたからだ。彼女は夢の中で以下に自分が苦しいか切実に語り、誰も味方がいないのだと言った。それから彼女はずっと私のそばにいて、寝る時や嫌なことがあった日に私に向かって語りかけてくる。私は彼女を成仏させなければならない。

私は彼女を馬鹿だと思っている。言えば良かったんだ。父親が怒鳴り散らして物に当たっている事も、そのせいで男性の怒鳴り声が怖い事も、算数が理解できない事も、手を上げなかったのは自分じゃないことも。でも何故言えなかったのかも十分理解できる。世の中の大人は先生や親だけじゃない。その事が分かるのはきっと9歳よりずっと先のことだ。本当に馬鹿だ。でもその後もずっと学校に行き続けた。負けなかった。私は敵だらけの中で戦った9歳の君をずっと誇りに思ってる。20歳になった君は、30歳の父親より、40歳の先生よりずっと大人だ。君のような子が側にいたら助けてあげられる。助けてあげられなくてごめん。でももう大丈夫、20歳の君はとても幸せだから。

昔話はこれで終わりだが、未来はこれからハッピーエンドに向かっていくはずだ。